父ちゃん

父ちゃん (文学の散歩道)

父ちゃん (文学の散歩道)

児童書☆「まだ電気でつく明かりがもったいないと思っていたころ、家族は寝るまで囲炉裏のそばにいた。」
そういう時代の物語。
主人公良夫は三歳になってすぐに、父親を病気で失っている。七五三の記念写真一枚でしか父親を思い出せなくなっている。
その良夫(小4)に、半年前に父親ができた。母がいつも小間物売りに来ていた「吾一やん」と再婚したのだ。
良夫は、新しい父親を「父ちゃん」と呼びたいのに「吾一やん」としか呼べない。
「吾一やん」を父ちゃんとして大好きなのに、どうしても口に出して呼べない。
そんな良夫と「吾一やん」と母親と祖母の物語である。


短編連作。良夫はもちろん、「吾一やん」、母親、祖母の気持ちが痛いほど心に響いてくる物語ばかりだ。
中でも一番好きなのは、最初の「汽車を追って」。
ラスト、「吾一やん」が良夫に汽車を見せるため、良夫を乗せた自転車を死に物狂いでこぐシーンがすごくいい。
「吾一やん」の父親としての気持ちと、その気持ちを良夫が感じ取っているという、それぞれの思いに胸が熱くなった。
実は、私にも蒸気機関車が大好きな息子(当時2歳)に、走っている機関車を見せたくて、ドタバタとがんばった思い出がある。
それと重なるから尚更だと思う。親って、そうなんだよなあ……って。